『今、乗っているクルマやバイクのパーツを外そうとしたところ、ネジが錆び付いているらしく固くて全然回らない!』
このようなトラブルはクルマやバイクのメンテナンスにはよくあることです。もしこの時のネジが六角ボルトやナットなら極端に錆び付いている場合を除けば、メガネレンチや長いめのフレックスハンドル(スピン ナーハンドル)でなんとか回せる場合もあります。
しかし+字(クロス)や-字(マイナス)のネジの場合は、通常のドライバーの使い方ではほとんどお手上げの状態となってしまいます。無理して回そうとするとネジ山を潰してしまう結果となってしまいます。

そこでこのように錆び付いて固くて回らないようなネジには、浸透性潤滑剤や貫通ドライバーあるいはショックドライバー(インパクトドライバー)を使用してハンマーの衝撃荷重を回転エネルギーに替えてネジを回す方法を
前回号応用編1 『錆びついたネジが回らない!〜ネジのトラブル脱出方法 〜』 で紹介しました。

そもそも+字や-字のドライバーというものは、ソケットで六角ボルトやナットを回すのと違い、回すだけでは使うことができません。つまり押さえながら回さないとドライバーの刃先がネジの頭の外へ逃げようとする浮き上がり現象(カムアウト現象)が発生してしまうからです。そしてこのカムアウト現象を起こすと、ネジの頭を潰しやすいのでドライバーの回す力に対して押す力をもっと強くしなければならないわけです。

そこでカムアウト現象を抑えてネジ山を潰しにくくする、古いネジ対策の便利品をいくつか紹介します。

一つめはドイツのドライバー専門メーカーWera(ベラ)やハンドツール界の大御所Snap-on(スナップオン)や日本のドライバー専門
メーカーAnex(兼古製作所)で採用されている通称「ACRビット」と呼ばれているものです。

これらのACRビットはACR(アンチ・カムアウト・リセス)理論を具現化したもので、フィリップス社の特許となっています。
その具体的な構造はくさびの原理を応用したもので、+字を構成する4つの刃の両面に水平のギザギザを入れ、ネジから刃先が浮き上がるカムアウト現象を防止し、またミゾを潰さず、より高い締め付け力で作業を完了させる極めて進んだものです。

 


またこれ以外にも日本のドライバー専門メーカーのTOKOMA(トーコマ)から少し変わった刃先形状を採用しているGIGA FIT(ギガフィット)ドライバー(※)というものもあります。
その独特の変わった刃先は特許を取得しており(特許第2588848)、実際に使ってみても確かにネジへの食い付きはよく、ネジ溝に深く密着してカムアウト現象も防げます。またグリップの後部をハンマーで叩く時に、叩き込む力を集中伝達させると共にその反発力を吸収減少されるボール・ジョイントシステムを内部に採用しているのも特徴的で錆び付いているネジには有効に働きそうです。

 

独自の先端形状をもったギガフィットドライバー

もう一つはドライバーやビット本体ではなく「摩擦増強液」である薬剤を紹介しましょう。薬剤というよりは研磨剤のようなもので、錆び付いたネジを外しやすくしたり、ネジ溝が壊れてしまっているものでも回すことができるようになるという便利品です。

それもあらゆる種類のネジに対応することができ、特に今までお手上げ状態であった+字や-字頭のネジには非常に効果的なものといえます。中でも一番厄介であった+字頭のネジ溝が壊れかけで、ドライバーがなめてしまうような状態の場合でも、+字の溝に少しこの液体を塗るとドライバーがしっかり食い付いてネジを楽にゆるめることができます。
最初は「こんな液体で効果が期待できるの…?」と半信半疑かも知れませんが、一度使ってみるとその手ごたえの違いをはっきりと体感することができます。

「摩擦増強液」というものは、もともとアメリカ製の製品が日本に輸入され販売されているケースが多かったようですが、今では日本製の製品もあり先に紹介したACRビットのAnex(兼古製作所)からも「ネジの滑り止め液」(※)という商品名で販売されています。

この摩擦増強液である滑り止め液の原理は、研磨材の細かい粒子が骨材となって+字や-字のネジ穴の接触面の隙間を埋めて、摩擦係数を増強させるものと思われます。つまり硬い研磨材の鋭利なエッジが金属表面に接触することによって、ドライバーの回転力を確実に伝えることができるようになるということです。

実際に指先にとってその成分の感触を確かめてみると、粒度の大きさが異なる研磨材に水分を加えて混ぜ合わせた感じです。商品パッケージの品質表示にもアルミナ系鉱物と水と増粘剤とあり、液性も中性ですから使用後はさっと拭き取るだけで錆の心配もありません。ところでこの摩擦増強液である滑り止め液は、指先で触った感触が少し荒い目のコンパウンドによく似ています。試しにコンパウンドで滑り止め効果を試してみたところこれでも確かに手ごたえを感じる事ができました。


すべり現象を防ぐ摩擦増強液。なめたネジを回すことができます。その効果は抜群です。

しかし本来の目的を達成するには、やはり摩擦増強液の「ネジの滑り止め液」の方が確実に優れているといえます。
また現在では全国の多くのホームセンターでも非常にリーズナブルな価格で販売されているので、試しに使ってみる価値は十分にあるでしょう。
但し、ドライバーの使い方は押す力7に対して、回す力3であることをお忘れなく!

またこの摩擦増強液について当社に次のような一通のメールが届きましたので紹介します。
「私がプロのメカニックをしていた当時は摩擦増強剤の代用品として、バルブコンパウンドを使っていました。インテーク並びエキゾーストバルブ
とバルブシートの合わせ面の修正用研磨剤です。レシプロエンジンのメカニックには割と手近な物でしたから、摩擦増強剤など買わずにもっぱら使
用していたと記憶しています。緩まないネジはプロにとっても強敵です。早く作業を完了させるのもプロの仕事ですから、分解作業を止めてしまう
緩まないネジは悩みのタネでした。」


このようにネジに関するトラブルはメンテナンス初心者やプロのメカニックを問わずよくあることです。固く締まっているネジの中でも六角ボルトやナットネジの場合で、しかも六角の角がしっかりとして、極端に錆び付いていなければオーソドックスな処理方法として摩擦係数を低減させる浸透性潤滑剤をスプレーし、数分程度経過した後にメガネレンチや長いめのフレックスハンドル(スピンナーハンドル)でぐいっと力を加えると回せる場合もあります。

しかしこういった作業を行ってもなお緩まない場合もあるでしょうし、最悪の場合はボルトやナットの角を潰してしまう結果となってしまうこともあります。またネジのサイズと異なるサイズのレンチで回してしまったり、工具のサイズの精度そのものが信用できない格安品で作業をした場合にもボル
トやナットの角をなめやすくすることもあります。

それでは次に角が丸く潰れてしまったボルト・ナット対策の便利品をいくつか紹介します。

●ノンスリップ構造のコンビネーションレンチ(※)
当社で発売しているギアレスノンスリップコンビのオープンエンド部に採用されている特殊な形状が特徴のコンビネーションレンチ。
上あごの内面にはいくつかのギザギザの溝を刻み、下あごには通常のストレートではなく段が付いています。このためネジに噛み込んで回転するため角が減っているネジでも大きな回転力を与える事ができます。


●ノンスリップソケット(Non-Slip Socket)(※)
六角形状のソケット部の内面にいくつかのギザギザのタテ溝を刻んでいるため、より強力なホールド力を実現し角が70%程度丸くなめたボルトやナットでも食い付いて回す事ができます。
差込角9.5mm 
7PC.ノンスリップソケットセット(当社品番WS3807)
8-10-12-13-14-17-19mm
参考売価7,000円


●ツイストソケット
外観は普通のソケットのように見えますが、ソケット部の内側がドリルの刃のようになっているため緩める方向に回すと食い込んでいく設計。このためボルトやナットの角がまん丸くなってしまっているものでも簡単に外す事ができます。ただし特殊な構造上逆ネジには使うことができません。また言うまでもありませんが取り外したネジは新しいネジと交換することをお勧めします。

上記で紹介したいずれの商品も角が丸くなめたボルト・ナット対策としては大変便利で重宝するものです。
しかしその強力な回転力でネジに食い付くため小さな10ミリや12ミリぐらいのボルトでは頭の部分だけねじ切れてしまうということがあるかもしれません。でもこのようにネジが破損したとしても対策はいくらでもあります。そのときの状況にもよりますがちぎれたボルトの先端がいくらかでも出ている様な場合には、バイスグリップで掴んで回したり、それでもだめならスクリューエキストラクターを使うという手もあります。

スクリューエキストラクターというのは簡単に言えば、逆ネジのドリルみたいなものをボルトにねじ込んでいく仕掛けです。使い方としてはまず折れたボルトの表面をサンダー等で平らにして、残ったボルトの中心にドリルで穴を明けます。このボルトのセンターにぴったりと穴を明けるのは、かなりの熟練が必要ですがこれさえうまくいけばあとは簡単です。(センターポンチを使用した方がきっちりとセンターに穴を明ける事ができます。)
次にエキストラクターをドリルで明けた穴にハンマーを利用して打ち込むだけです。そしてエキストラクター本体後ろ側にある四角部分にレンチをかませてネジが緩む方向に回してやると残ったネジに食い込み、さらに力を加えると折れたボルト部が緩んで引き抜くことができます。

このようにネジに関するトラブルはクルマやバイクのメンテナンスにはよくあることです。このために様々な便利な工具や専用工具があるわけです。だから思い切ってまた安心してどんどんネジに対処してください。色々なトラブルを経験することによって自ずとその対策も上手になって早く作業を完了する事にもつながります。なによりその貴重な経験が今後のメンテナンスライフの財産となり、また『プロの工具使い!』に近づいていくわけですから。