クルマやバイクはもとよりご家庭内の電化製品やパソコンなど世の中にある多くの工業製品は、様々なパーツを組み合わせて一つの完成品となっています。そしてこのパーツとパーツを締結させるネジというものは欠かすことの出来ない重要な部品と言えます。
ネジの場合は、溶接や接着それにリベットを用いて締結させる方法と違って、必要に応じて容易に分解できるというメリットがあります。そしてバイクいじりに限らず、メンテナンス作業とはこのネジを締めたり緩めたりすることから始まります。つまり絶対に避けては通れないメンテナンス作業の基本というわけです。

そして数あるハンドツールの中で最もポピュラーな存在のドライバーは、「小ねじや木ねじを締めたり、緩めたりするもの」ですが、呼び方には「ドライバー」の他「スクリュードライバー」あるいは、「ねじ回し」と呼ばれることもあります。ドライバーで回すべき「ねじ(ビス)」は、電車や自動車、あるいはご家庭の電気機器などにも数多く使用されており、あたりを見渡しても2〜3本は必ず目につくはずです。
こんな身近な存在でありながら、ドライバーのことを
『あっ、ただのねじ回しねえ。』
という感じで、一般には深く考られていないようです。
ドライバーについて思い出して見てください。
初めて使ったのはいつだったでしょうか?
「接着剤だけしか使っていなかったプラモデルにモーターを取り付けたとき」
という方が多いのでは?
「ラジオの分解」でしたか?
そうでなくても、「初めて使った工具」がドライバーだった、つまり自分のなかで最も歴史が古い工具がドライバーという方が多いのではないかと思います。実際、ドライバーはハンドツールの中で最も歴史が深いもののうちのひとつです。このように身近で親しみやすいドライバーには、実に奥の深いおもしろい世界があります。

ドライバーには、使う目的によっていろいろな種類があります。
作り方で分けると、
・「普通型」と
「貫通型」
があります。普通型は、軸(金属の部分)がハンドルの途中まで入って固定されています。一方、貫通型は、軸がハンドルの中心を通って末端まで出ています。そのおかげで固く締まったビスに対処するとき、ハンマーを使って衝撃を加え、緩みやすくすることができます。いざというときのために、バイクやクルマには貫通型を用意さ
れていたほうが役に立つ場合が多いでしょう。しかしながら、貫通型は普通型に比べて重いというデメリットもあります。

上:「普通型」
軸がハンドルの途中で止まっているタイプ。

下:「貫通型」
軸がハンドルを貫通して末端まで金属が出ているタイプ。強く締まっているネジや錆び付いているネジに衝撃を加えて使います。
またドライバーの刃先形状は
・「−字」(マイナス)や
・「+字」(プラスまたはクロス。フィリップスともいう)があります。
この二種類が最もポピュラーですが、他にも
・「ソケットドライバー」
・「ヘックスドライバー」
・「ポジドライバー」
・「トルクスドライバー」
・「スクエアドライバー」 などがあります。それぞれの用途は、ボルトやナットを回すための「ソケットドライバー」、六角穴付きボルトを回すための「ヘックスドライバー」、特殊ねじ用ドライバーとして、ねじとドライバーの食い付きをよくしたポジねじを回す「ポジドライバー」、星形の形状をしたトルクスねじを回す「トルクスドライバー」、四角形状のネジを回す「スクエアドライバー」です。中でもメジャーな存在のマイナスとプラス、そしてより効率のよいトルク伝達を求めた新しいネジについて、順にもう少し詳しく説明します。


●マイナス
日本では、マイナスドライバーは、品質と刃先寸法によって
・普通級(N級)と
・強力級(H級)
の二つの分類がJIS規格によって定められています。本体材料やねじり強さの違いによりニ等級に分けられ、強力級の方がより厳しいねじりモーメント(トルク)基準をクリアーしたものなのです。
寸法は主として、軸のつけ根から先端までの長さ、またそれに先端部の刃幅を組み合わせて呼びます。
例えば、「-6×100mmのドライバー」と表示されるわけです。これは、通常100mmのドライバーといえば先端部の刃幅が6mmという意味です。但し例外もあって、使い勝手を考慮して軸の長さを通常より長くしたものや、逆に短くしたスタビードライバーと呼ばれるものもあります。

マイナスドライバーのサイズ表記は、軸のつけ根から先端までの長さ、 またそれに先端部の刃幅を組み合わせて呼びます。
上写真の場合には、軸のつけ根から先端までの長さが100ミリで 、 刃幅が6ミリということで
「-6×100mmのドライバー」と表示されます。


上のイラストは、+No.2の大きさのネジを
左: +No.2のプラスドライバー
右: +No.1のプラスドライバー
で回している様子。 +No.1のプラスドライバーでも回して回せなくはないが、ネジにフィットしていなく、その結果ネジの頭をつぶしやすい。やはり正しいサイズにあったドライバーを正しくご使用ください。
 

上写真は、手動用のインパクトドライバー。
ハンドルの尻部をハンマーで叩くとその力(衝撃力)が回転力に変化するというものです。
ネジを強く締め付けたり、錆付いているネジを緩める場合には大変威力を発揮するツールです。


ベビードライバーとパームドライバー。その他、柄の短いスタビードライバーなど一口にドライバーといっても形状や種類は様々です。
 

●プラス
プラスドライバー(クロスドライバー)は、大きさを番号で呼び、1番から4番まであります。マイナスドライバーと同様に、軸のつけ根から先端までの長さと大きさの番号を組み合わせて呼びます。
例えば、「+No.2×100mmのドライバー」と表示されるわけです。
みなさんの中には、意外にプラスドライバーにサイズがあることを知らずに使われている方も多いのではないでしょうか?
それは、+No.2の大きさのネジを+No.1のプラスドライバーで回して回せなくはないからです。
つまり、ドライバーの先端の大きさのサイズ(大きさ番号)が多少異なっていても使えてしまうということです。しかしながら、こういった使い方をするとネジの頭をつぶしやすく、その結果トラブルが発生してしまいますので、正しいサイズにあったドライバーを正しくご使用ください。

ソケットで六角ボルトやナットを回すのと違い、ドライバーを使う時にはドライバーを回すだけでは使うことができません。つまり、押さえながら回さないと、ドライバーの刃先がネジの頭の外へ逃げようとしてしまうからです。
この現象を『カムアウト現象』と呼びます。カムアウト現象を起こすと、ネジの頭をつぶしやすいので、ドライバーを回す力に対して、押す力をもっと強くしないといけません。

またサビついて固まっているネジや固く締まっているネジは、通常のドライバーの使用は避けて、インパクトドライバーを使用した方が懸命です。インパクトドライバーは、電動ドリルにドライバービットを装着して使用するタイプがよく知られていますが、手動のものもあります。インパクトの構造は、ハンドルを握りネジを回す方向に手の力を加えながら、ハンドルの尻部をハンマーで叩くとその力が回転力に変化して、容易にネジを締めたり、緩めたりすることができるというものです。カムアウト現象を起こす主な原因は、使用ドライバーの大きさのサイズ違いという使用者の誤りというのが多いですが、ドライバーそのものの先端形状の精度が原因となることもあります。だからドライバーを購入する場合は、国内外の主要メーカーの信頼できるブランドを選んだ方がいいでしょう。

それではドライバーメーカーにはどういった所があるのでしょう?
日本のメーカーには、ベッセル兼古製作所(ANEX)、宮本商事、ルビコン、トーコマ等があります。一方海外メーカーでは、スイスのドライバー専門メーカーPB、ドイツのハゼットとベラ、そしてアメリカのスナップオンあたりが有名なところです。しかし、ドライバーというものは、使用頻度が高く、人それぞれ手の大きさもフィーリングも違うわけですから、一度グリップを握ってみて、力が入れやすく、しっくりした感じの一本をご自身で選び出して下さい。

さて、数ある形状の中でも小ネジと言えば、まずプラス頭を想像するように現在の日常生活の中で一番よく目にするのがこのプラスネジではないでしょうか?
但し、プラスネジが世の中に普及する以前にはマイナス頭が主流となっていた頃もあります。マイナスネジは工具とネジの接触面積が小さく脱着作業の途中でネジの頭をなめやすいという欠点がありました。
この欠点を改良するためにオランダのフィリップス・スクリューが作ったものがプラスネジ規格のはじまりです。ネジの頭の形状と回す工具の先端形状に違いを持たせ、強く押さえ込むことで“くさび”の効果を発揮して作業性がよいというのが特徴でした。しかしプラスネジを回す時には回す力より押さえる力を大きくしないと自然とネジの頭から外へ浮き上がってくる“カムアウト現象”が発生してネジの頭をなめてしまったり、また回す工具のビット先端部が磨耗したり、変形しやすいといったデメリットも同時に広まっていったのも事実であります。

またバイクやクルマに使われているネジというものは、かつて+字のネジが主流でした。『でした』という過去形になっているのは、最近の外車は+字のネジを採用していないところが数多く見受けられるあるからです。それでは代わりに何を採用しているかと言えば、これが六角や六角穴付き(ヘックス)、ポジ、トルクス、スクエアという形状のネジです。より効率のよいトルク伝達を求めて、バイクやクルマの世界では、ネジの形状が工夫されてきたということがいえるわけです。

 


●トルクス
トルクスというのは、米国で開発されたネジの規格のため、『トルクスネジなんて見たこともない』
という人も結構多く、なじみが薄いものでした。しかし最近では、例えばベンツをはじめ輸入車では頻繁に使用されており、国産車においてもドアのヒンジ部分やアルミホイール、さらに工具に至ってもラチェットハンドルのギア部をとめているネジにも使用されているのが現状です。そして今では日本の自動車規格のJASOF116-76で認められています。

トルクス規格というのは、アメリカのテキストロン傘下のCamcar社(カムカー社)が開発したネジの規格であり、
またトルクスという名称は登録商標のためメーカーによっては「ヘックスローブ」と呼ばれたり、当社では「スペシャル」と呼んでいます。先端部の基
本形状は六角(ヘキサゴン)に似ていますが、まったく別物のため工具を代用することはできません。その形状の大きな違いは六角(ヘキサゴン)が正六角形に対し、トルクスの方は6つの耳たぶ状の滑らかな曲線で構成されています。+字や-字ネジは言うまでもなく六角穴付きネジに比べても、トルクスはネジの頭と工具が完全に面で接触するので無理なくトルクを伝達させることができます。また磨耗や割れの原因となる応力集中が避けられて工具やネジの耐久力をアップさせているのが最大のメリットと言えます。

通常+字ネジを締め付ける時には、刃先がネジの頭から外へ逃げようとして浮き上がってくる「カムアウト現象」が発生するため、ネジを回す力よりもっと押す力が必要になります。これに対してトルクスネジでは、ネジと工具がぴったりとフィットして安定しているので回す力だけでも締め付けることを可能にしています。このため作業する人の労力を軽減し、高い作業性を実現することができると言えます。しかし六角穴付きネジと同様にもし穴の中にごみや泥が入ったまま締めるとトラブル発生の元となります。いくらトルク伝達がよいと言っても工具を穴に確実に差し込んで使用しないとその効果が発揮できません。正しい使い方をすることが大前提であることは言う迄もありません。

またトルクスとよく似た星型形状で、さらに中央部に丸型の突起物があるネジがあります。その名称を「いじり止めトルクス」または「いじり止めヘックスローブ」、当社では「いじり止めスペシャル」と呼んでいます。携帯電話やコンピューター内部で数多く採用されており、最近のクルマではエアーバックやシートベルト回りなどでも使われています。

そんなカムアウトしないトルクスネジですが、
デメリットが全くないというわけではありません。
これまでクルマやバイクのメンテナンスに必要なドライバーと言えば、プラス1番、2番、3番それにマイナスドライバーが1本あれば大概事足りていたのに、トルクスの場合は多くのサイズが必要となります。
またいじり止めトルクスは中央部に突起物があるため通常のトルクスレンチでは使用することが出来ません。具体的なサイズとしては、日産車や輸入車ではT27やT50、トヨタ車ではT30とかいうようにメーカー、車種、年式あるいは使われている箇所によりサイズも異なっています。

ここでTの27とか30とか50というのがトルクスの一般的な呼び名でありますが、トルクスの規格【※1】というのは、星型の頂点から頂点までの距離、つまり六角形でいうと対角線に相当する寸法が基準となっています。米国で開発されたネジ規格でインチを前提にしているため、その寸法はミリで表示すればかなりややこしい数字になってしまいます。



※各トルクスに対応する呼び径はJISでは認定されていないのであくまでも参考値です。


●ポジドライブ
ポジドライブという名称は、英国EIS社の登録商標。当社では単にポジとかPZ(ピーゼット)と呼んでいます。
外観上はプラス頭のネジとよく似ていて、もしその存在を知らなければおそらく同じネジだと思ってしまう人も多いでしょう。しかし実際の形状は異なっているためプラス頭のドライバ−ビットではうまくフィットしないため代用できません。
具体的にどこが違うかと言えば、プラス頭のドライバービットを刃先方向からじっくり見ると、その4枚の羽根の厚みがテーパーになっていることが確認できるでしょう。これに対してポジドライブは、4枚の羽根の厚みが均等な十字形状になっています。このためプラスドライバーに比べて喰いつき性に優れ、高いトルク伝達効果があり、あの厄介なカムアウト現象も少なくなっていることが特徴です。ミニやローバーなどのイギリス車をはじめ、スキーやスノーボードの取付金具にもよく使用されています。


●スクエア
六角穴付き(ヘキサゴン)や六角止めネジの六角部分が四角形状になっている四角穴付きネジ。
メーカーによってはスクエアーやスクルロックス、また当社ではロバートソンと呼んでいます。あまり日本国内では見かけることは少ないですが、輸入住宅やログハウスには数多く使われています。また珍しいところでは遊園地内のアトラクションの乗り物やショーのセットや大道具などにも使われています。プラスやマイナス頭のネジと違いカムアウトを極限まで排除していて、ネジと回す工具の接触する面積も大きいことから無理なくトルクを伝達することができ、作業性が高いのが最大のメリットです。

また上記のようなドライバ−ビット以外にも公衆電話や携帯電話あるいは公園の施設やパネル類あるいはコンピューター等の精密電子部品にはさらに変わっているものも採用されています。例えば三つの羽根が出ている形状のトライ・ウイングと呼ばれているものをはじめクラッチやツーホールと呼ばれているもの。あるいは六角穴付きネジの中央に丸い突起物が出ているものなど用途や目的に合わせて実に色々な形状のネジが使われています。このように次々と新しい形状のものが作られているわけですが、やはり製造コストが高いなどの問題点から未だプラスネジをしのぐほどの勢いというものでは有りません。しかし今現在、メジャーな存在ではないネジもそのメリットが多いものについては、近い将来もっと普及して脚光を浴びていることは間違いないでしょう。