ボルト・ナットの基礎知識と計測機器の使い方
『ネジを制するものはメンテナンスも制す!』

クルマやバイクはもとより世の中にある工業製品のほとんどは、様々なパーツを組み合わせてはじめて一つの完成品となっています。そしてこのパーツとパーツを結合させる方法として、大きく次のような二つに分類することが出来ます。

●永久結合方法… 溶接・接着・リベットを用いる方法
●非永久結合方法…ネジを用いる方法

クルマやバイクの場合は、後者の非永久結合方法のネジ(ボルトやナット)を用いて結合されていることが多く、これは必要に応じて分解できるというメリットがあるからです。そしてバイクのメンテナンスの大部分は、このネジを締めたり、緩めたりすることを意味します。だからバイクいじりを行う上で絶対に避けては通れない道、すなわちメンテナンスの基本というわけです。しかしながら人はともすればネジに対して無
頓着で、知らないが故のトラブルも少なくないわけです。

ネジの話というと、数字が多くなりがちで頭が痛くなるかも知れませんが、このネジを制すればクルマやバイクを取り巻く景色の透明度が上がります。そこでネジと上手につき合うためのベーシックノウハウを説明します。

まずはじめに知っておかなければならないことは、ネジのサイズに合ったレンチを使用しなければならいということです。そしてネジの規格には次のような基準となるものがいくつかあります。
●六角部の二面幅(S)  ●ネジ径(D)
●首下の長さ(L)      ●ピッチ (P)

ネジの企画
□六角部の二面幅・・・六角形の向かい合う二辺の幅。(S)
□ネジ径・・・・・・・・・・・ネジ部分の最大径をミリで表したもの。(D)
□首下の長さ・・・・・・・(L)
□ピッチ・・・・・・・・・・・・ネジ山の頂点と原点の距離。(P)

 

クルマやバイクに使われている一般的なボルトやナットは、レンチを掛ける部分が六角形になっている六角ボルトやナットが大半です。その基準となる寸法は六角形の向かい合う二辺の幅(二面幅)のことで、これがレンチのサイズというわけです。これは六角形が窪んでいる六角穴付きボルトでも同様です。よくある間違いとして、基本サイズを六角形の対角の長さと勘違いすることです。つまり頭の六角形が凸でも凹でもサイズは、二面幅であることを覚えておいて下さい。

次にネジ径というのは、ネジ部の最大径(呼び径)をミリで表したもので、よく耳にするM8(エムハチ)とかいう数字の8の部分がネジ部の呼び径8ミリであることを表しています。つまり呼び径が10ミリであればM10となるわけです。またM8×30とかいう表記は、呼び径が8ミリで首下の長さが30ミリという意味なのです。

次にピッチというのは、ネジ山の頂点と頂点の距離のことで、ネジ径に応じて標準的な並目ピッチが決められています。例えばM6のボルトで言うと、ピッチは1ミリです。しかしM8以上の太いネジになると通常の並目ネジ(ピッチ1.25ミリ)以外に細目ネジ(ピッチ1ミリ)というものも規定されています。つまり呼び径が同じであっても必ずしもピッチが同じであるとは限らないということです。
この細目ピッチネジはクルマやバイクの世界で、結構数多く使われています。だから見た目のボルトやナットの二面幅が同じでも、ネジ径・首下の長さ・ピッチの異なっているものは、互換性がないということをしっかりと覚えておかなければなりません。
逆に言えば二面幅などはどうでもよく肝心なのはネジ径、首下の長さ、ピッチが重要だということです。特にM8以上のネジには、たとえ呼び径が同じであってもピッチを確認せずに無造作にねじ込むことはさけるべきです。ちょっとでもあやしいと思うならピッチゲージで確認した方が懸命でしょう。
また呼び径、首下の長さ、ピッチが同じネジであっても、強い材質を使っていればより強い締め付けトルクに耐えることが出来ます。例えばこの強さの表示には、4Tとか5Tとかで表示され、4Tよりも5Tの方が強いトルクに耐えることが出来ます。


クルマやバイクの場合、より強度が求められているところでは、5Tや7Tといった強度に耐えることができるネジを使っていることがあります。よくボルトのてっぺんを見ると5とか7とかの数字表示が記されていますが、これが強度区分なのです。(なにも記されていない場合は、4Tと判断してもよい。)
だから強さを求めて7Tの強度区分を使っているネジを、たとえ呼び径、首下の長さ、ピッチがあったとしても、安易に普通のネジを使ってはいけません。やはり純正ネジ、あるいは同じ強度区分のネジを使って下さい。

世の中には非常に多くのネジの種類とサイズがあるわけなんですが、バイクやクルマに使われいるネジというものはある程度限られています。よく使われているネジというのは、

M8(ネジ径8mm、ピッチ1.25mm、二面幅12mm)
M6(ネジ径6mm、ピッチ1.0mm、二面幅10mm)
M5(ネジ径5mm、ピッチ1.0mm、二面幅8mm)
M10(ネジ径10mm、ピッチ1.25mm、二面幅14mm)
M12(ネジ径12mm、ピッチ1.5mm、二面幅17mm)
といったところです。

ネジのすべてのスペックを覚える必要もありませんが、よく使われいるM8やM6などのポピュラーなもののスペックを知っているだけでも何かと便利です。メンテナンスの基本はネジの脱着です。すなわちネジと上手につき合えばメンテナンスはうまくいくものなのです。
『ネジを制するものはメンテナンスも制する!』

さて、日常生活の中で長さや厚みを計るものと言えばみなさん何を思い浮かべますか?おそらくメジャーや定規、あるいはものさしや金さしといったたぐいのものではないでしょうか。これらは長さを計るときには時として大変便利で重宝するものです。しかしその測定単位は1ミリ単位。

つまりミリ単位以下の測定はできないわけです。だけど日常生活の中で通常ミリ単位以下の数字に気を使っている人などおそらくいないでしょうから長さを計る時には上記のようなのもので十分こと足りるでしょう。ところがクルマやバイクのメンテナンスとなれば話は違います。特にエンジン内部の計測や調整あるいは足回りのセッティング等につきましてはミリ単位以下の数字が調整値データとしてシビアに決められています。そこで数ある計測機器類の中から長さや厚みを計測するノギスマイクロメーターそして歪みを測定するダイヤルゲージ。またクリアランスを測定するシックネスゲージ(隙間ゲージ)とボルトのネジ山を簡単に測れるピッチゲージについて説明します。


ネジの全てのスペックを覚える必要はありませんがよく使われているM6やM8などのポピュラーなもののスペックを知っているだけでも何かと便利です。メンテナンスの基本はネジの脱着です。すなわちネジと上手に付き合えばメンテナンスがうまくいくものなのです。


●ノギス
ノギスは対象物の内外径や深さを簡単に計測できるものです。例えばクルマやバイクに使用しているボルトやナットの対辺サイズを計測するとしましょう。もし目から離れた位置のものであれば普通のものさしやメジャーであればなかなかうまく計ることは出来ません。これは対象物をうまく挟み込むことができないからです。ノギスの場合はモンキーのような幅を調整できるジョーというものがあるため対象物を確実に挟み込み、そのあと目で数値を読むことができるメリットがあります。またノギスにはオーソドックスなアナログ式、ダイヤル式、デジタル式などのいろいろ種類があります。アナログ式の中にもスタンダードなM形標準ノギスと呼ばれるものや長いものを測定する長尺ノギス、アゴの部分の長いロングジョーノギス。また特殊な形状や特殊な材質を測定する専用ノギスというのもあります。測定機器専門メーカーでは用途に合わせて実に多くの種類のノギスがラ
インナップされています。初めて購入する場合には、価格的にお手軽でオーソドックスなアナログ式あるいは数値の読み間違いのないデジタル式。長さは150ミリか200ミリのものがよいでしょう。

そこで具体的なノギスの使い方ですが、まず測定誤差を生まないためにも利き手でノギスを持ちます。
(測定機器専門メーカーには左勝手ノギスという左利きの人モデルもあります。)次に対象物の外径を計るときには、主尺を持ち親指で副尺をずらしながら外側の大きなジョーを対象物に挟み込んで使います。また内径を計るには小さな内側のジョーを使って同じように親指で副尺をずらして使います。また穴の深さなどの凹部を計るには副尺をずらしたときにスライドして出てくる後端のディプスバーというものを使用します。このとき斜めにならないように注意しないといけません。ノギスの最小目盛は100分の1(0.01ミリ)というのもありますが20分の1(0.05ミリ)というのが一般的です。もし0.01ミリ単位で正確に計測するためには後述のマイクロメーターの出番となります。

次に目盛と計測値の読み方についてオーソドックスなアナログ式ノギスを使って説明します。まず目盛ですが主尺には0からフルスケールまで1ミリ単位の目盛、そして主尺を挟み込むようにスライドする副尺には0から10までのバーニヤスケールという表示があります。そして計測値の読み方はまず最初にバーニヤスケール側の0位置を主尺で読み、続いて主尺とバーニヤ目盛が一直線に重なる部分を探しその目盛を読みます。最初のうちは計測する度に数値が異なってしまうかもしれませんが、力まずに肩の力をぬいてリラックスしてやればうまくいくものです。まずは何度か使って慣れて下さい。

●マイクロメーター
ノギスはおもにに20分の1(0.05ミリ)単位で計測するものでこれ以上の正確さを要求する時にはマイクロメーターの出番となります。すなわち100分の1(0.01ミリ)あるいは1000分の1(0.001ミリ)単位まで計測できるものがマイクロメーターです。誤差の許されない寸法管理の非常に厳しいエンジン内のピストン等のパーツは、ノギスでは計ることのできないもっと細かな精度を必要としています。こんな時に大変頼りになるのがマイクロメーターというわけです。マイクロメーターにもノギスと同じように外径を測定する外側マイクロメーターや内径を測定する内側マイクロメーター、またこの両者にも数値の読み取りが容易なカウント表示付きというものがあります。これ以外にも深穴用、ネジの有効径や歯車のピッチを測定する専用のマイクロメーターなど実に種類は豊富にあります。一般的には外側及び内側マイクロメーターの0〜25ミリまで計れるものが最も普及しています。

通常マイクロメーターはスリーブとシンブルという目盛が刻まれており、まず最初にスリーブの目盛を読み、次に回転するシンブルの目盛を読みます。マイクロメーターはノギスにくらべ精密な分、その扱い方と管理に気を付ける必要があります。それでは具体的に正確に測定するための大切な基本的事項を紹介します。

■ノギス・マイクロメーターの目盛りの読み方

最初にスリーブの目盛りを読み、次に回転するシンプルの目盛りを読む。写真の場合、「9.48」と読む、シンプルがさらに回転し「0」まで行くと「9.5」になる。


主尺は「0」からフルスケールまで1単位の目盛りがあり、主尺を挟み込むようにスライドする副尺(バーニャスケール)には「0」から「10」までの表示がある。計測値の読み方は最初にバーニャスケール側の「0」の位置を読み、続いて主尺とバーニャメモリが一直線に重なるメモリを読む、写真の場合は主尺とバーニャスケールの「7」のメモリが重なっているので「17.7」と読む。

■落としたり、ぶつけたり過激なショックを与えないようにする。
■使用前後、測定面をきれいに拭き取る。ゴミやほこりで測定値
  は変わってしまいます。
■測定の際には後端部にあるラチェットストップを必ず使用する。
 必要以上に締め付けると正確なデータを得られない。2〜3回ラチェット
 が空回りするぐらいがベストです。
■使用後は各部に付着した汚れや指紋のあとを乾いた布で拭き取ること。
■保管時には測定面を0.1〜1ミリ程度開いた状態を確保し、直射日光
 の当たらないところに保管する。
■測定時にはマイクロメーターと測定する対象物を十分室温に馴染ませ
 る。体温程度の温度であっても計測に影響を及ぼすのでスピンドル部に
 は直接手を触れない。長さ10センチの鉄の棒は10℃の温度変化で
 約0.012ミリ寸法変化します。


●ダイヤルゲージ
棒の伸縮をメーターで正確に読み取る測定機器。特にシャフトの振れや曲がりやフライホイールの歪みなどを測定する時に威力を発揮します。

ダイヤルゲージの計測単位は100分の1(0.01ミリ)と1000分の(0.001ミリ)単位まで計測できるものがあります。それでは一般的な100分の1まで計れるもので計測の方法と目盛の読み方を説明します。まず計測方法は最初に零点調整と言う作業から始まります。これはまず測定の基準となる頑丈な部分に台を固定し、調整しようとする対象物に伸縮する棒の部分をあて、ゲージ外側の外周部分を回して長針を
0に合わせることです。台の固定には強力な吸着力を持つマグネチックスタンドを使用すれば便利です。次に目盛の読み方ですが、メインダイヤル上には0から10、20、30そして90まで100本の目盛は刻まれており、その一目盛が0.01ミリを表します。つまり目盛が10の所で0.1ミリとなり、一周すると1ミリというわけです。また時計のクロノグラフのようにメインダイヤルとは別に小さなスモールダイヤルがあり、これはメインダイヤルを指す長針が何周しているかを表します。つまりスモールダイヤルの針が2周して、メインダイヤルの長針が10の所を指していれば2.10ミリと読むわけです。

●シックネスゲージ
それぞれ厚みの違う極薄い金属製のブレードを束ねたもの。ノギスやマイクロメーターでは測れないような狭いところで、束上になっているブレードの中から任意のゲージを1枚取り出して、隙間に差し込んで平行に引いたときに適度な重さであるかどうかを見てそのクリアランスを測定するものです。適度な重さでピッタリと合うものが、その基準値となるわけですがその手ごたえは『ゆるすぎず、きつすぎず』。このあたりはご自身で手ごたえと感触を習得することが大切と言えます。

シックネスゲージはシリンダーヘッドの歪みを測定するときやバルブクリアランスの調整の時にも使うことができます。またその形状にはスタンダードタイプとロングタイプそして折れ曲がっている角度付きタイプなど用途に合わせてさまざまなバリエーションが揃っています。

この微妙な隙間を計測するシックネスゲージは、使いっぱなしはよくありません。やはり測定機器は使い方と保管に気をつける必要があります。まず使用前はブレ−ド面をきれいに拭き取ること。もしゴミやほこりが付いていると測定数値が変わってしまいます。また使用後は各部に付着した汚れや指紋のあとをきちんと拭き取り、直射日光の当たらないところに保管する。そのまま放っておくと次に使用する時には錆びと御対面ということになりかねません。錆は対敵です。測定機器に限らず工具も使った後はさっと拭くという癖をつけておきましょう。

●ピッチゲージ
その名の通りネジ山のピッチを測定するもので、ギザギザの溝を持つ金属製のブレードが折畳式ナイフのように束ねられています。使い方は、いたって簡単です。ギザギザになっている部分をネジ山に合わせてピッタリと合うかどうかを確認するだけです。それぞれのブレ−ドにはサイズが表示してあるのでピッタリと合致したものがそのネジのピッチサイズというわけです。

いずれの計測機器も使い方をマスターすれば実に頼りがいのあるプロユースのものです。まず対象物をきっちりと計測して、シビアに決められている調整値データに如何にして近づけるかというのがメンテナンスの鉄則とも言えます。また全国各地で行われているクルマやバイクのレースやイベント会場にはいろいろな新品、中古、あるいは流用パーツを安く売っていることもあります。こんな時にスマートにノギスを取り出し、サイズを計測して目的の物を安くゲットすることもできます。今まで使ったことがない方もぜひこの機会に使い方マスターして今後のチューニングやレストア等のメンテナンスライフに活用してください