現在工具を何も持っていないけどクルマやバイクをいじりたいという人 が、初めて工具を揃えようとする時には、「ホームセンターや量販店で販売されている格安セットよりも、工具のプロショップ等でじっくり目でみて手で触って、また適切なアドバイスを受けながら必要最小限の工具を買い揃えることが望ましい」と第1号のWeb Magazine目指せ、プロの工具使い!工具とは何か?入門編1の中で書きました。

しかし、実際にもうすでにクルマやバイクいじりをしているみなさんの中には、お近くのホームセンターで購入した格安セットでメンテナンスを楽しんでいる方もきっといらっしゃるのではないでしょうか?そんな中、当社宛に次のようなメールを頂きました。

『ここ数年、ホームセンターで買った1,980円のセット工具で、今まで特に何の問題もなく作業して来ましたが、
最近その工具がよくなめ、よく割れてしまいます。そしてその工具に大変不安を感じ、
最近工具はよいものを使うべきだということに気が付きました。』

そこでそろそろこのような格安セットから卒業してしっかりとした工具を揃えようというときにはどのようにすればよいのでしょうか?

まず工具の揃え方としては、次のニつの方法があります。

一つめは、セット品で一気に揃えてしまうという方法です。こちらの最大のメリットはその価格の安さです。単品ですべて揃えるのに比べて、おそらく2割から3割は安くなっていることでしょう。なかには半額セールなどというお買得な商品もあるかもしれません。また工具を自分でうまく選ぶ基準がわからない初心者の場合には、最低限の必要なものが最初から用意されたセット品を選んでも決して間違いではないでしょう。
あるいはひとまずセット品からはじめて、そこから自分の欲しいものを随時買い足していくという手もあります。だから最初にセット品を買う場合においても工具箱にはできるだけ余裕のあるものを選んでおいた方が賢明でしょう。またセット品の中にもツールメーカーの組んだセットの他に、工具プロショップが国内外のメーカーを問わずに、何種類ものブランドをおりまぜてショップ一押しのセットという形で販売されているものもあります。

ニつめは、必要な工具を必要な時に買い揃えていく方法です。こちらのメリットは、必要なものしか買わないのですから工具に無駄がないということです。つまりセット品の場合は、極端なことを言えば永遠に使うことのない工具が入っているかも知れないのに対して、こちらの場合はそういうロスが全くないということです。プロの工具ショップの適切なアドバイスや友人の意見を参考にして、ご自分で必要な工具を好きなブランドでチョイスして、自分だけのオリジナルセットを作る楽しさがあるという意味においても、工具の揃え方の王道ともいえるでしょう。

格安セットから卒業してワンランクアップした工具を揃えようとする時に、いきなり高価な海外のブランドツールばかりで揃える必要は全くありません。工具はとにかく自分で使ってみないとわからないものです。そして使い方がわかってきてこそ、その価値が見えてきます。だからメンテナンス力とともに徐々に工具のレベルアップをしていくことが理想といえるのではないでしょうか。


上写真は、Pro-AutoツールキットSTシリーズ
【ST-9705】

差込角1/2"&1/4"DR. 97ピースのコンビネーションセット。メンテナンスに最低限必要なソケットレンチ類にメガネレンチ、ドライバーやプライヤーなどのアクセサリー類も標準でセットされています。価格の方も定価はオープンプライスですが、単品の定価の合計の半額以下というセット品ならではの価格が魅力です。

 



 注1[工具を安全にご使用いただくために]
 ●工具本来の目的・用途以外での使用はしないこと。
 つまり、ラチェットハンドルやスパナをハンマー代わりに使用しないこ
 と等がこれに当たります。
 ●欠け、磨耗、変形等異常が見られた場合は使用しないこと。
 レンチ等にヒビや割れの異常が見られた場合は、そのまま使用すると、
 作業中に破損して事故やケガの原因となるからです。
 ●無理な体勢で作業しないこと
 作業時には常に足元をしっかりさせ、バランスを保つようにするという
 ことです。特に高所作業では、落下防止用の安全ロープを取り付けて下
 さい。
 ●改造しないこと
 これは加熱、加工等をした場合は、著しく品質の低下を招いてしまう恐
 れがあるからです。これらはすべての作業工具に共通する基本的な注意
 事項です。

そんなメンテナンスには欠かすことのできない工具ではありますが、これも正しい使い方をすればこそ大変便利で重宝するものです。もし誤った使い方をすると、たいへん危ない凶器に変わってしまう恐れもあります。事故が起きてからでは手遅れです。安全に工具をお使いいただくために、まず正しい知識を身につける必要があります。こうした理由からも、最近の工具メーカーの製品カタログや商品パッケージ、取扱説明書にはイラストや写真入りで注意事項が掲載されていることが多くなっています。
それでは工具というものは、どのようなことに注意して作業しなければならないのでしょうか?工具全般に共通する注意事項としては、左注1の工具を安全にご使用いただくためにをご覧ください。
それでは、他の主な注意事項について具体的に説明します。
ソケットにしてもスパナにしても、それぞれにサイズというものがあります。だから当然のことですが、六角ボルト・ナットのサイズに合ったものを使用しなければなりません。しかし意外と異なったサイズのものを使用しているケースも多いのではないでしょうか?例えば日本のバイクやクルマとアメリカのものでは六角ボルト・ナットのサイズの単位が違う場合がよくあります。日本の場合はメトリックボルト(ミリ)で、アメリカの場合はインチボルト(1/4、5/16、3/8インチといった分数表示)が広く使用されています。
ここで問題となるのが、単位が違うとぴったり合うサイズはないということです。

たとえば5/16インチはミリに換算すると7.938ミリ、また3/4インチは19.050ミリになります。
それぞれ8mm、19mmの異なったサイズのレンチやソケットでも使えそうに見えます。実際にはめてみても「誤差?」程度のすき間しかできません。しかしこのような過った使い方をすると、むしろ工具よりも大切な相手のボルト・ナットの角をなめやすく、また傷つける結果となってしまいます。だからインチボルトが使用されているアメリカ車等には、必ず専用のインチ工具を使うようにして下さい。

またソケットは完全にナットが隠れるまで差込んで使用すること。スパナでいうと口の奥でボルト・ナットを確実にくわえて使用すること。
そうしないと相手のネジをなめやすく、また不安定な状態で力を入れ過ぎるとレンチがはずれたり滑ったりして大変危険ですので注意して下さい。
 またパイプ等を差込んで使用しないこと。
 ハンマー等で叩いて衝撃を加えないこと。
 足で体重をかけないこと。
等にも注意して下さい。

ソケット、ラチェット等のレンチには、限界トルクがあります。
締め付けられたボルト・ナットが簡単に緩まない場合に上記のような使い方をすると、ボルト・ナットの角が傷んだり、またレンチが破損してしまいます。レンチが破損すると大変危険ですので、くれぐれも力のかけすぎには注意してください。

そうは言っても外さなければいけないケースもあるものです。簡単に外れないボルト・ナットを緩めるときには、あらかじめ浸透性潤滑剤などを使用することをおすすめします。浸透性潤滑剤は、錆び付いたボルト・ナットの間に浸透し摩擦係数を低減させる効果があります。浸透性潤滑用スプレーは、ボルトとナットの接合部の全面にスプレーし、10分程度時間が経過してから、緩め作業に取りかかってください。なお、再度締め付ける場合は、浸透性潤滑剤を良く拭き取ってから締め付け作業をしてください。良く拭き取らないと、トルク係数が小さくなるため締め付け過ぎてボルトが伸び切れる場合があります。つまりレンチに限界トルクがあるように、ネジの方にも限界トルクがあるということです。

バイクやクルマの場合は、スパークプラグ、ドレンプラグ、シリンダーヘッドボルト、またホイールナット等は締め付けトルクが決まっています。締めすぎが原因のトラブルも多く発生しています。これらのネジはやはりトルクレンチで正確に締め付けることが必要です。

上写真:YAMAHAセローの場合、スパークプラグの六角対辺サイズは18ミリ、締め付けトルクはおよそ15〜20N・m。(ニュートンメートル) 締め付けトルクは 、バイクや自動車のねじの太さや使用箇所によって異なります。詳細は、取扱説明書をご覧になってください。

通常の使い方で(過度のトルクをかけないで)レンチを使用していれば、国内の信頼のできるブランド品であれば、まずレンチが破損することはないでしょう。万が一破損した場合は、堂々と買った販売店やメーカーに申し出てみてください。きっと対応してくれるはずです。『永久保証』をうたっているメーカーは日本には少ないようですが、各メーカーとも気持ちは永久保証としてツールを作っています。当社の場合も何年も前に買っていただいた商品でも修理できるものは修理し、できないものは無償交換する方針ですすめています。

ハンドツールを含め工具には、それぞれに使用方法と大事な注意事項がありますので、商品の購入の際は、取扱説明書をよく読んで工具に対する正しい知識を身につけて下さい。ハンドツールというものは、正しく 使って正しく保管しておけば、軽く5年や10年ぐらいは使えるものなのです。いや、もっと極端なことを言えば、紛失しない限り、一生使えるかもしれません。愛着のある自分だけのハンドツールとは、だれしも永く付き合いたいと思うはずです。そこで、常によいコンディションで活躍させるためには、保守点検すなわち日頃のメンテナンスがたいへん重要となってきます。
みなさんは、日常どのようなメンテナンスを行っていますか?

例えば、バイクやクルマのオイル交換の作業を終えた後、使用したソケットなりラチェットなりメガネレンチがオイルやほこりで汚れたとします。
あなたならどうしますか?
間違ってもそのままツールボックス(工具箱)の中に放りこんでしまうような工具に対する愛情のない扱いはしないでくださいね。ツールボックスに収納する前にウエス(ぼろ布やタオル)でさっと拭いてから収納してください。これだけの作業で、全くといっていいほど工具のコンディションが変わります。ほんの2〜3分でできることですから、ぜひ習慣として身につけてください。ツールの差込み部にオイルやほこり等のよごれがひどい場合は、差し込み不良をおこし作業の途中ではずれたりして大変危険なことにもなります。またギア構造をもつラチェット等では、内部にほこりが入ると回転不良をおこし、ひどい場合には回転しなくなってしまうこともあります。
また屋外で作業中に、突然雨が降ってきて工具がぬれてしまった場合でも、必ずウエスで水分を拭きとってください。そうしないと、次に使うときには、みごとなサビと御対面ということになるかもしれません。はげしくぬれてしまった場合は、サビ止めのために浸透性潤滑スプレーなどで拭くとさらに効果的です。



たいていのレンチ類は、使用後にウエスでサッとひと拭きするだけでメンテナンスOKですが、ラチェットハンドルのヘッド部分のメンテナンスがよく問題になります。ラチェットハンドルは、ヘッド形状から大きく2つに分類されます。ひとつは小判型(だるま型)で、もうひとつは丸型。
分解して内部構造を見てみると、小判型の方がシンプルです。これだけシンプルなら故障も少ないし、何よりもメンテナンス面で優れているのがよいところです。ここでよく問題になるのが、通常はネジ止めのヘッド部がかしめられてしまっている場合です。分解するにはこの部分を削らないといけないのでたいへん厄介です。ヘッド部をかしめたタイプのラチェットを製造されているメーカーによると、ユーザーが不用意なメンテナンスをした場合にトラブルをひき起こさせたくないということが理由だそうです。しかし、永く愛着をもってラチェットを使っていきたいユーザーは、自己の責任でヘッド部を分解し、メンテナンスをさせるほうがいいと考えます。

では、ラチェットハンドルのメンテナンスは、具体的にどうすればよいのでしょうか。まず、表側にある2本の止めネジをゆるめて裏側よりプレートをはずします。そして、内部のギアをはずし洗い油(灯油でもOK)で洗浄します。次につめクラッチのギアとの噛みあい部分をブラシ等でみがきます。つめクラッチははずしません。その後、グリース(シリコン油)を薄く塗布するだけです。このときグリースのつけすぎに注意してください。あとはもと通りにプレートをはめて、2本のネジを締め付けるだけでメンテナンスは無事終了です。

ラチェット内部の分解写真
ラチェットハンドルの組み立て順序と方法

1.バネ(1)、スチールボール(2)を穴に差込むように挿入する。
2.つめクラッチ(3) で押し込むようにスプリングとスチールボールを固定する。
3.ギア(4) をつめとかみ合わせながら挿入する。
4.プレート(5) をはめて、反対側より止めねじ2本(6)を用いて固定する。
5.本体の外側より切替レバー(7) を圧入する。
ネジをかしめているラチェット 当社ラチェットネジをかしめていない

ラチェットのネジ止めの形状

ラチェットのヘッド部分の裏面当社製品。
プレート(だるま型、黒) の中央のくびれ部分付近の両側にあるふたつの小さいマルに注目してください。

これは表側(この写真でいうと、見えていない側。=切り替えレバーのついている側)から通されたネジの先端です。
かしめて(叩きつぶして) ありません。

これがかしめられているラチェットを分解する場合は、
この「かしめ」 を削らないといけないので、メンテナンスがしにくくなります。

なお、プレートの下部中央付近の丸い部分は、表面の切り替えレバーのバーです。これ自体はかしめてありますが、メンテナンスのための分解には影響がありません。

ドライバーは、ハンドツールの中で一番消耗品的な要素が多いツールと言えます。刃が磨耗したら、まだ使えそうでも、新品と交換してください。
磨耗したまま使用すると、相手のネジの方を傷めてしまい、かえって高く付いてしまうことになりかねないからです。
トルクレンチは、作業工具でありながら、測定工具の仲間となりますので、丁寧に取り扱うことが最優先です。保管は、専用のブローケースに収納して、ほこりなどが入らないように注意しないといけません。また使用頻度に応じて、定期的に精度検査をする必要があります。しかし、一般ユーザーの場合にはこの検査は自分ではできません。購入された販売店を通じて精度検査を依頼してやってもらうのがベストでしょう。

ハンドツールのメンテナンスというのは、むずかしいことは何もありません。
大切なバイクやクルマを整備する工具には、愛情を持って接することが最大のメンテナンスとなるでしょう。